係員の物思い

ちょいと寛容になるには。

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係員としてドブさらえのような事務仕事を淡々とこなしていると、隣の席に座っている暇を持て余した係長が話し掛けてくることがある。

僕はただでさえ腐りかけている脳髄をさらに腐らせないためのささやかな予防措置としてテレビを見ないようにしているため、我らが自称先進国日本に住まう自称先進国民たちが何について騒いでいるのかということ、すなわちニュースなるものに疎く、テレビ中毒・ネット中毒の係長はその僕の疎さに憐れみを抱いて、時折この前こういうことがあった、ああいうことがあったと教えてくれるのだけれど、先日係長が話してくれたところによると、大型台風が猛威を振るう中、とある自治体の避難所でホームレスの人が避難所の使用を拒否られたらしいですやん。

ひどい話ですねー、無差別に受け入れてあげればいいのに、と僕が言うと、係長は、臭くて汚い人がいると多くの人が嫌な思いをするやんかー、と言ってきたので、僕は、なるほど、係長はそういう立場か、と悟り、難しい問題ですねー、と言ってドブさらえのような事務作業に舞い戻った。

自治体の対応に関する議論に深入りするつもりはないのだけれど、これを寛容・不寛容の問題として捉えると、僕は個人的に寛容なほうが何かと生きやすいように思うので、なるべく人には寛容でありたいと努力したい立場だ(しかーし、池袋の殺人爺のような重罪人は絶対に認めない)。

どうすれば人は寛容になりやすくなるのかしらん、と考えてみると(別に寛容になるべきだと強制したいわけではない)、諸行無常というこの世の圧倒的な真理、ガチガチに盤石な大前提の上に仁王立ちする必要があるように思う。

例えば、係長。

係長はこれまで淡々と自称大人たちが容易に容認する期待通りの世間のレールを歩んできていて、これからも歩み続けようとしている人間で、別にそれはそれで全くもって問題ないのだけれど、典型的な自称大人であるが故に想像力に乏しく、おそらく諸行無常の力によって何らかの抗いがたい劇的な変化が起こり自分がレールからはじき出される可能性を十分に想像できていない。

端的にいうと、自分が汚れて臭くならざるを得ない可能性を想像できていない。

このような想像はジョン・レノン級の想像力がなくても容易に想像できるレベルのことなのだけれど、それができていない。

この世の中には種々様々な理由で肩身の狭い思いをしている人がいるが、そのような人々を差別し、排斥していると(ただし、池袋の殺人爺のような人間は許してはならない)、諸行無常の力によって自分が何らかのかたちで肩身の狭い思いをする羽目に陥った時に、自分が非寛容であった分だけ劣等感に苛まれ、差別され排斥されてもそれに反論する余地もなくなってしまい、絶望的にどん詰まってしまいかねない。

諸行無常であるが故に、健康な人間も病人になるかもしれないし、働いている人間も失業するかもしれないし、溌剌な人間も発狂するかもしれないし、金持ちも貧民になるかもしれないし、係長もホームレスになるかもしれない。

今現在の心地の良い自分の状況が変転し、不愉快極まりない状況になってしまう可能性を僕らは絶対に否定できない。

人に寛容であることは自分を守るために大切なことだと思うのだけれど、別にこの価値観を他人に押し付けるつもりはない。ただし僕は池袋の殺人爺のような人間だけは許さない。そして係長が諸行無常の大波にかっさらわれて汚くなり臭くなり誰からも排斥されないようになることを切に願う。

なんだかまとまっているようなまとまっていないような文章の連なりになってしまっているが、テレビを見ない弾力性に満ちた脳髄の持ち主の読者の方は何となく理解してくれると思います。

P.S.

『ブレイキング・バッド』という海外ドラマ、面白いのでおすすめです。

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